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手紙

あなたは人目のお客様です。

1997年、僕はイベント会社でバイトをしていた。会社に登録しておくと仕事の電話がかかってきて、それを引き受けるかどうか決めるシステム(当時の携帯はまだメールが使えなかった)。働く場所は、東京ビッグサイトや幕張メッセといった場所だった。

彼女のことは、現場で何回か見かけていた。初めて喋ったのは夏の終わり。ある仕事の打ち上げの席だった。場が盛り上がる中、彼女は時々ぼんやりとしていた。トイレ近くで顔を合わせた時、声をかけた。「大丈夫?疲れているみたいだけど」 「うん、平気。でもこういうのって、慣れてないから」 「…実は、俺もなんだ」 彼女は驚いていた。その打ち上げの幹事を、僕がやっていたからだ。「冗談だよ」 そう言うと、「なーんだ」と言って彼女は笑った。揺れる黒髪がきれいだな、と思った。

三ツ沢公園球技場それから同じ現場になった時に、言葉を交わすようになった。休憩時間は一緒に食事をした。やがて、休みの日には遊びに出かけるようになった。よく訪れたのは横浜。けれど、行きたい場所は違っていた。僕は三ツ沢公園球技場。その頃Jリーグで横浜フリューゲルスを応援していたからだ。前年の年間順位が3位、その年の1stステージが2位。優勝への期待が高まっていた。山口素弘とサンパイオのボランチコンビが好きだった。サッカーのことをよく知らない彼女を連れて、スタジアムに行った。天気の良い日は、横浜駅から30分かけて歩いた。上り坂はキツかったけど、一緒に歩くことが楽しかった。残念ながら、試合が行われる土曜日は大抵仕事が入っていたけれど。

横浜みなとみらい21彼女が好きだったのはみなとみらい21。赤レンガや日本丸付近をぶらついている事が多かった。2人とも時間はあったが、お金はなかったのだ。夜になると、彼女は観覧車に乗りたがった。1周15分で700円は高いと思ったけど、大体いつも押し切られた。ゴンドラが動き出すと、彼女は真剣な目で景色を眺めていた。僕はその横顔を見るのが好きだった。

冬のある日、「お母さんが入院する事になった」と彼女が言った。僕は一緒に見舞いに行った。ベッドには彼女によく似た人座っていた。年齢は40半ばと聞いていたが、もっと上のように見えた。随分とやつれていたからだ。「娘と仲良くしてくれてありがとう」 そう言われて、僕は頭を下げた。病室を出ると、病気がちで昔から時々入院しているのだ、と聞かされた。だから家事は大抵こなせる。お母さんがいない時は、私がお父さんの面倒も見ているのだ、と。どれも初めて耳にする話だった。

それから彼女は、休みを取ることが多くなった。家庭の事情があることを、会社も理解していた。僕は業務に慣れてきたせいか仕事の量が増え、忙しく日々を過ごした。彼女と会う機会は減っていった。たまに顔を合わすと、疲れた様子が気になった。無理して会わなくていいから、ちゃんと休んだ方がいいよ。そう言うと彼女は悲しそうな顔で僕を見て、「そうだね」と呟いた。あるいはその時、僕は別の言葉をかけるべきだったのかもしれない。

暖かい春の日差しがこぼれる頃、2人で横浜へ遊びに行った。それは久々のデート。幸い彼女の体調も良さそうで、僕たちは1日中遊んだ。そしていつものように観覧車に乗った後、「別れてほしい」と彼女に言われた。突然の言葉に、戸惑う僕。しかし理由を問いかけても、彼女は何も答えない。口を真一文字に結んで、ただ僕を見つめていた。そしてしばらくすると、背を向けて歩き出した。とっさに彼女の腕を掴んだが、振り払われた。それは思いがけないほど強い力だった。そのまま振り返ることなく彼女は立ち去り、後には僕だけが残された。

その日のうちに電話をかけた。つながらなかった。次の日も、またその次の日も。何度かけても、結果は一緒だった。数日後仕事で事務所に顔を出した時、彼女について尋ねた。僕に別れを告げた日に、社員登録を抹消していたことを知った。年賀状を貰っていたので、彼女の住所は知っていた。けれど、行く気にはならなかった。僕の知っている電話番号はPHSだけ。2週間経ってからかけてみると、「おかけになった電話番号は、現在使われておりません」という、無機質なアナウンスが聞こえるだけだった。

それから、2年の月日が流れた。

僕のもとに手紙が届いた。消印はカナダ。差出人の名字を、僕は知っていた。彼女の父親からだった。1ヶ月前に彼女が亡くなったと、そこには記されていた。「娘と親しくしてもらっていたようなので、お伝えします」という文で、手紙は終わっていた。

事態がよく呑み込めなかった。どうして彼女が死んだのか、そしてなぜ今頃自分に連絡がくるのか。すぐに返事を書いた。「娘さんとは昔付き合っていたが、2年前に別れを告げられた。カナダに行ったことは知らなかった。できれば詳しい事情を教えて欲しい」。……2週間後に小包が届いた。添えられた手紙には「娘の持ち物を整理していたら、これが出てきた。迷ったが、君に渡すのが1番いいと思った」と、書いてあった。それは、彼女の日記だった。

僕と会ってからの日々が、そこには記されていた。最初会った時は怖そうな人だな、と思っていたこと。サッカーについて勉強しようと雑誌を読んでみたけど、よくわからなかったこと。三ツ沢で一緒に試合を観た日のページには、翌日の新聞が貼り付けてあった。

日本を離れた理由は、彼女の母親にあった。重い心臓病を抱えていて、治療の為にカナダに移った方がいいと、医者に勧められた。悩んだけど、両親だけ行かせて自分だけ日本に残るわけにはいかない。でも、今度日本に戻るのがいつになるかわからない。それまで待っていて欲しい、なんて言えない。だから、別れようと思った。最後のデートは本当に楽しかった。別れる時に嘘をつこうと思っていたけど、何も思いつかなかったから言えなかった。絶対に嫌われてしまったと思うけど、好きでいてくれたらいいな…。

カナダに移ってからは、日記に時折封筒が挟まれるようになった。僕の住所が表に書かれていて、封もされていた。けれども、切手は貼られていなかった。中には便箋が入っていた。

元気にしてますか。
まだ9月ですが、こちらは時々肌寒い日があります。そっちはまだまだ暑いんでしょうけど…。今年のフリューゲルスは優勝できそうですか?カナダではサッカーの人気が、あまりありません。ヨーロッパの情報は入ってきますが、日本のはさっぱりです。インターネットが使えればいいんだけど、私がパソコン苦手なことは知ってるよね(笑)

父親の手紙によれば、母親は日本をカナダに来て1年後に亡くなっていた。続いて、彼女も発病。心臓病は遺伝性のもので、そうなる可能性は本人も知っていたらしい。病気の進行は早く、彼女は1年でこの世を去った。

なぜ彼女はこんなに僕のことを想ってくれたのだろう。僕が何をしてあげられたんだろう。もっと早く知っていれば、気づいていれば。何か出来たはずなのに。

毎年春になると、彼女の事を思い出す。心の中で、手紙を書く。

そっちはどうですか。
今年もJリーグが開幕しているんだ。2年連続優勝した横浜Fマリノスが、やっぱり強いと思う。FがフリューゲルスのFって、みんな覚えているのかな…。最初名前を聞いた時は 「藤子・F・不二雄みたいだ」なんて言われたけど、時間が経つと慣れてしまうもんだね。そうそう藤子不二雄といえば、ドラえもんの声優が交代したんだよ。

桜の花が咲く頃、僕はまた1つ年を取る。彼女は永遠に若いままだ。けれども彼女を想う時、僕の心は20歳に戻っていると思う。

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■コメント
豆?儿 - 2005年3月20日 16:35
たまたま見たが、感動した。「僕はまた1つ年を取る。彼女は永遠に若いままだ。けれども彼女を想う時、僕の心は20歳に戻っていると思う。」ということばに。中国人の豆?です。よろしく:)

seri - 2005年3月20日 19:30
こんにちは。切ないですね。書いたのに送れない手紙。すごくすごくわかります。私もそういうとてももどかしい気持ちになったことがありますが。。切なかったなぁ。。東京はそろそろ桜の季節ですものね。台湾には春の概念がなくて少し寂しい気もしますが。。季節が巡るたびに思い出される思いは人様々ですね。。

探偵 - 2005年3月20日 19:45
こんばんは。自分がそうなることを判っていて最後の時間まで想い通したのか。彼女はホントにガチャピンさんのことを愛していてくれたんですね。日本にいる間に楽しい思い出がお互い作れてよかったと思いますよ。彼女はまだガチャピンさんの心の中に生きています。いつまでも手紙を書き続けてあげてください。

et nico - 2005年3月21日 0:34
すごく心にしみるお話でした。送りたくても、送る事ができなかったという手紙、彼女の気持ちがよくわかります・・・。

☆Alice☆ - 2005年3月21日 12:34
こんにちは。 彼女のお父様は、きっと嬉しかったのでしょうね。自分の娘が、とても大事な感情を共有する人を持てた事を。だから、迷った末に、日記をガチャピンさんに委ねたのでしょう。あまりにも、感情が溢れていたから…。 もしかしたら、お二人と私は、三ツ沢競技場ですれ違いフリューゲルスの応援とゆぅ同じ時間を共有していたのかもしれませんね。もし、彼女への手紙に隙間があったら三ツ沢ですれ違った女の子(当時)に、偶然会ったよ。と…
【追加】
ごめんなさいm(_ _)m 何か、自分の書いたコメント見てビックリしました。なぜ、彼女への手紙に自分の事を書いてなんて言ったんだろう…。謎です…。言い訳をさせて貰えれば花粉症の薬でボーッとしているところにガチャピンさんのブログを読んで感情が昂ぶってしまったのかと…(T-T) 変なことを書いてごめんなさいm(_ _)m 改めて読んでみてガチャピンさんは彼女のお父様にとっても彼女が存在した事の“証”なんだなぁ… と、思いました。

ami - 2005年3月21日 19:13
とても切なくなりました。。。悲しい別れは、いつまでも心に残っているものですね。それから・・『出せない手紙』というV6の曲を思い出しました。切ないメロディーが大好きなんです^^私は、「この手紙を送りたい・・でも・・」といろいろ悩んで出した手紙があります。返事は返ってこなかったけれど。。。「出せない手紙」のままにしておけば良かったのかな・・と思ったりしますね^^;

Birigian - 2005年3月21日 19:35
読ませて頂いて切なくなりました。好きなのに離れる事を選んだ彼女。出せなかった手紙。それでも、楽しかった時間はきっと、彼女を支えて居た筈だから。

ハム - 2005年3月22日 5:06 悲しすぎ・・・号泣。でも、毎年彼女のこと思い出すって最高。 いい思い出って本当に自分を支えてくれるんだな。うむ。 彼女はガチャピンさんと二人で過ごした時間思い出して笑顔だったと思うな。 ハム

eryce - 2005年3月22日 22:35
かけがえのない…「出逢い」に感謝ですね。 時間を経て あなたに届けられた想いを彼女は喜んでいると思いますよ。そして 春ごとに届けられるあなたからの心の手紙を楽しみにしているかもしれませんね。 わたしも「出会い」を大事にしたいと思います。 ★彼女の想いが僕に届いたように、僕の想いも彼女に届いて欲しいです。一期一会という言葉もありますし、これからも人との出会いを大切にしたいです。

0420 - 2005年3月23日 8:43
>あの時僕は、別の言葉をかけるべきだったあたしは、別の言葉なんて要らなかったと思います。彼女はガチャピンサンに何か気づいて欲しかったのかもしれない。でもガチャピンサンの優しさを感じたからこそ、別れという選択肢を選んだと思うから・・・。 人間関係(特に男女関係)は何が正しくて正しくないのかいくら経験を積んでもホント分からないですよね。ガチャピンサンはステキな女性にめぐり合ったと思います。

Y氏 - 2005年3月23日 16:08
こんにちは、ブログを読んでいて胸が、キュ~ンとなりました。ガチャピンさんにとっても、彼女にとってもきっと素敵な出会いであり大切な想い出になったのでしょうね。うらやましいです。彼女はきっと最後の最後まで、ガチャピンさんのことを愛していたと思うから・・・・Yには、今とても大切だと思う人がいます。出来ることなら、一生涯想い続けたいです・・・・

たく- 2005年3月25日 10:28
いい恋愛してるね。 人は何かを切っ掛けにして色んなことを思い出す。メリットデメリットあるけど、私はそれで良いと思う。人間らしいって思う。考え生きてるって感じがする。 ま、お互い思い出は思い出として大切に歩いて行こ、 そして、何より、先には、よりよき出会いがあることを願ってます。

スモモ - 2005年3月25日 20:26
こんばんは☆コメントありがとうございました(*´ω`*) これは。。。せつない。。お互い好きだったのに! 悲しくなるなぁ・・・。 でも ガチャピンさんとその方はちゃんと心で結ばれてますね☆ ブログのコメントの返事の仕方、そういうのもアリなのか!!と 目からうろこでした。・・・ネコの写真も かっこいいです!

1Kate☆1 - 2005年3月28日 10:20
今 化粧をしたばかりなのに、マスカラが落ちるじゃないですか!こんなに心を揺さぶられるとわかっていたら、読まなかったのに・・・。 どうやって乗り越えるの?こんなに切ない出来事から・・・・・。私には想像ができない。もしかして、まだ乗り越えていない?

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東京のIT系企業に勤める男。1977年生まれ。趣味は読書、スポーツ観戦、トレーニング、ブログ、映画鑑賞。

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