様々なジャンルのコラム・データベース。近年は書評が中心。短いトピック、日常的な事柄はTwitterで更新中。
単行本:313頁 出版社:文藝春秋
価格:1470円 初版:2006年5月
2006(平成18)年上半期 第135回直木賞
評価:85点
『器を探して』 『犬の散歩』 『守護神』 『鐘の音』 『ジェネレーションX』 『風に舞いあがるビニールシート』という、6つの短編からなっている。その内容は、バラエティに富む。最初の2編『器を探して』 『犬の散歩』からは、細やかな筆致と心理描写の巧みさが窺えた。ただ、少し爽やかすぎる嫌いはある。続く『守護神』になると、少し印象が変わる。内容的にそれほど面白いとは思わないが、話の構成が興味深い。そして『鐘の音』 『ジェネレーションX』。この2つが素晴らしい。前者は仏具修復師、後者は出版社員が主人公。それぞれの業界の事情を踏まえつつ、そこで働く男の思いがひしひしと伝わってくる。プロットが秀逸だ。そして最後に表題作の『風に舞いあがるビニールシート』。6つの作品の集大成ともいうべき内容で、読み応えがある。本を通じて作家の成長が見られる短編集だ。
それぞれの作品で描かれているのは、「大切なもの」のために懸命に生きる人たち。それを守るために何かを犠牲にしなくてはいけなかったり、辛い思いをする時がある。その価値は誰にも理解されるとは限らず、バカにされたり疎まれることだってある。しかし「大切なもの」があるからこそ人は強くなれたり、幸せを感じられる。勝ち組・負け組といった言葉をはじめ、人を判断する物差しがたくさんある世の中。しかし、その人にしかわからないこともまた、確かに存在するのだ。自分にとって、譲れないものは何だろう…そんなことを、読後に考えさせられた。 (読了日:2007年2月9日)
作っている人:ガチャピン
コメントの投稿